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2016 Feb.26
Dream & Passion ~輝ける女性たちの肖像~ Vol.21

捨てられる新聞紙を、動物のオブジェに。
〈造形作家 一ツ山チエ〉が考える、「生きること」

CHIHARUさん

自分らしく活き活きと働く、素敵な女性たちを紹介する「Dream & Passion」。今回、お話を伺ったのは、新聞紙(!)で動物のオブジェを生み出すアーティスト、一ツ山チエさんです。

一ツ山さんの創作テーマは、「生きること」。作品のほとんどは、等身大に近い動物の姿です。こうしたモチーフを選ぶようになったのは、人間に命を奪われかけた、あるサイとの出会いがきっかけとか…。そのほか、新聞紙を再利用しての創作をはじめた経緯や、最新作のトカゲシリーズに込められた思いを教えていただきます。

新聞紙をこよりにして幾重にも重ね、動物のオブジェに

一ツ山さんの作品 ニホンザル一ツ山さんの作品 ニホンザル

現在34歳の一ツ山チエさん。2011年から、現在のような新聞紙によるオブジェをつくりはじめたとのこと。紙とは思えないほどの存在感ですが、どのようにしてつくっているのでしょうか。

一ツ山ねじった新聞紙で土台をつくり、外側には、新聞紙をこよりにしたものを貼りつけています。芯から表面まで、すべてが紙。それでも重厚感を感じるのは、こよりを幾重にも重ねているからなんです。

CHIHARUさん
(大海原に旅に出る!~ウミガメ)2014年/新聞紙 紙ひも
展示風景 船橋アンデルセン公園子ども美術館/撮影:椎木静寧

ジュゴンやセイウチなど、大きな動物もモチーフにされていますよね。全長2~3mと巨大な作品ですが、これらは実物大ですか?

一ツ山いえ、実際は、もっともっと大きいんですよ!作品は、展示場所に運ぶ手段を考えると、大きさに限界があるんです(笑)。でも、なるべく等身大に近づけたい。動物そのままのイメージを伝えたいんです。

巨大な作品の場合、かなりの日数がかかっているのでは?

一ツ山ほとんどの動物は、親子で作っています。そのほかにも、複数の作品を並行してつくるんです。なので厳密には言えないのですが、大きいもの1体で3~4か月ほどかけて仕上げていきます。作品の周囲を私が移動しながら、作業していくんです。

紙の町・富士市で育った日々が、作品づくりの原点

一ツ山さん一ツ山さんの作品 途中経過

現在の制作方法をはじめた経緯を、教えてください。

一ツ山子どもの頃から、「表現する人になりたい」と思っていたんです。大学ではデザインを学び、卒業後はイラストの仕事をして…。さまざまな表現方法を模索するなかで、既製の紙ひもで半立体の花をつくったのが、2004年です。

そのとき、「これだ!」と感じた点があったのでしょうか。

一ツ山紙ひもが生む曲線や、重なり合って地層のようになった美しさに感動したんです。その後、新聞紙をこよりにするという今のスタイルが確率したのは2011年、20代後半のこと。サイの作品をつくったときです。

一ツ山さんは静岡県富士市のご出身で、現在もアトリエを設けています。同市は、豊富な水源があることから、“紙の町”と栄えた地ですよね。

一ツ山実家は、祖父の代から紙ひも工場を営んでいます。子どもの頃は、山積みになった紙の廃材で遊んだことも。大きな廃材のゴミ箱に、お風呂のように潜ったりしていました(笑)。

表現者である・ないに関わらず、誰しも自分なりの個性を発揮したいと考えるもの。一ツ山さんの場合は、ご自身のルーツにそのヒントがあったということですか?

一ツ山イラストを描いていた頃、イラストレーションだけでは物足りない感じがして、自分はこのまま埋もれていってしまうんじゃないかと、危機感を抱いていました。だったら、私がもともと持っているもの・経験からパワーを得よう、そうすることで、表現に深みが出てくるんじゃないか…と。子どもの頃、紙の廃材に囲まれてワクワクしていた気持ちを、今は作品づくりに向けているんです。

新聞紙は、捨てられたり、リサイクルで生まれ変わったり…。そういった特徴は、作品づくりに影響していますか?

一ツ山動物たちの作品は「命」がテーマです。一つの役目を終えた新聞紙が、また違った形で命を吹き込まれるわけです。その制作の背景には、私が生きてきた紙に囲まれた生活があって。創作していると、「もうイヤだ」「でもやらなくちゃ」と、さまざまな感情も生まれてきます。それら全てが合わさって、「生きる」ということの表現につながればと思っています。

動物をつくるきっかけは、密猟者に命を狙われたサイとの出会い

君が、心の叫び歌今もまだ叫びつづける
(君が、心の叫び歌今もまだ叫びつづける)2011年/新聞紙
CLASKA The 8th Gallertでの展示風景 撮影:熊谷直子

現在のスタイルで制作をはじめ、5年間で50もの作品を仕上げたとか。一ツ山さんが、「これを表現したい」と感じるのは、どのようなときなのでしょうか?

一ツ山以前、NGOグループのイラストの仕事で、アフリカ・ザンビアに研修旅行に行ったことがあります。最初につくったサイとは、そこで出会いました。密猟者から救出され、国立公園に保護されていたサイなんです。近づくのが怖くなるほど大きな体をしていたけど、弱っていて、寂しい目をしていました。でもその目から、優しさも感じることができて。きっと“優しさ”は、サイがもともと持っていたもの。それを見たときに「あ、この子をつくりたいな」と感じたんです。

サイの角は高値で取引されるので、密猟者に狙われるそうです。すでに絶滅してしまった種もあり、現生の種も絶滅危惧種に指定されていますよね。

一ツ山密猟者に捕らえられたサイは生きたまま角をえぐられ、その部分が壊死して命を落としていきます。その現実を目の当たりにして、人間であることが嫌になりました。「『生きている』ってなんだろう?」。そう考えたのが、動物たちをつくるきっかけになっています。

orilla’s mom
(Gorilla’s mom)2011年/新聞紙 紙ひも
展示風景 H.P.FRANCE WINDOW GALLERY

一ツ山さんの作品には、サイのほか、セイウチやジュゴン、ゴリラなど、絶滅危惧種の動物が多数。そこにも、生へのメッセージが隠れているのでしょうか。

一ツ山命を奪われていった動物たちに、もう一度命をつくってあげる、という気持ちを込めています。あとは、たとえばゴリラなら、「なんだか愛おしい動物だな」と思いながらつくりました。ゴリラを見ていると「なんで、あんなにムキムキの体つきなんだろう?」とか、「それでいて、ちょっと優しそう(笑)」とか、いろいろ考えるんです。背中に子どもを乗せている様子を見て「人間と、あまり変わらないんだな」とも。

最新作は、トカゲたち。
這いつくばって空を見上げる姿が、愛おしい

一ツ山さんと作品 コモドオオトカゲ一ツ山さんの作品 コモドオオトカゲ
コモドオオトカゲは、こよりを編んで、
ウロコに覆われた皮フを表現。
一ツ山さんの作品 ホカトカゲ一ツ山さんの作品 ホカトカゲ
ホカトカゲには、丸めた新聞紙が使用されている。
カラフルなのは、カラー刷りページを用いたため。
「新聞紙でできる表現は、まだまだあると思うんです」と、一ツ山さん。

今日は、は虫類をモチーフにした作品をお持ちいただきました。最近の作品とのことですが、シリーズのテーマを教えてください。

一ツ山一連の作品のタイトルは、「とかげから見上げる空」。這いつくばって生きているトカゲの姿に、ぐっとくるものがあったんです。地に這い心地よさそうに日光浴をしている姿を見て、「そこからは、空がどんな風に見えるんだろう?」と思いながら、つくりました。

作品を見て、トカゲが見上げているのは空であり、“希望”や“未来”でもあるのかなと感じました。

一ツ山トカゲの姿は、自分自身にも重ねているんです。「這いつくばって生きてやる!」って(笑)。

いつかは作品づくりを越えて、「生きること」にアプローチしたい

紙ひも、紙テープ紙ひも、紙テープ
子ども向けワークショップでは、新聞紙だけでなく、紙ひもや紙テープなどを使用。
立体をつくったり、貼り絵のようにして半立体をつくったり…と、
複数のバージョンで実施しているそう。

今後の活動で、実現したいことはありますか?

一ツ山作品をつくりながら、いろいろなことを考えます。「自分が生きているのは、ほかの生物の命を食べているからなんだな」「人間でも、食べられない人もいる」「この社会の仕組みは、どうやってできているの?」…。そういうことに、いつかアートを通したプロジェクトなどで、具体的なアプローチができたらと思っています。

d-labo静岡では、子ども向けのセミナーを開いていただきました。そういった子ども向けの活動も、その一環なのでしょうか。

一ツ山アートや動物に関する子どもたちの好奇心・記憶のひとつになったらいいですよね。私自身、昔見たアートや紙に囲まれて育ったことが、今の原点にあります。きっと子どもたちも、未来の“なにか”につなげていくんじゃないかな…と。

動物や自然が好きな一ツ山さんとしては、ほかの国に行ってみたい、展示をしてみたいなどの希望もあるのでは?

一ツ山行ってみたい国は、いっぱいあります!この地球には、こんな動物がいるんだ、こんな自然が広がっているんだと、自分の目で確かめたい。現地の人たちとも、交流したいです。それをまた作品にする…というのは、夢ですね(笑)。

今日はお話を伺っていて、動物、人、作品…、たくさんのものに向けられた、一ツ山さんの優しさを感じました。今後の活動・作品も、楽しみにしています。

Information

hitotsuyama.studio

一ツ山チエさんが、2011年に静岡県富士市に拠点を移したことをきっかけに、アートディレクターの玉井富士(たまいとみじ)氏とともに設立。HPでは、一ツ山さんのプロフィールのほか、展覧会の様子なども掲載中。

d-labo静岡

d-labo静岡は、あなたの夢と毎日を応援するコミュニケーションスペースです。美しさとは外見だけでなく内面から溢れるもの。そのような魅力を持つために、新しい知識を得てゆっくり考える時間と場をご提供いたします。
なお、今回、一ツ山さんとトカゲシリーズ・サルを撮影したのは、d-labo静岡内。グリーンと光に満ちた、明るいスペースになっています。

撮影・松永光希