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イベントレポート

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2017年7月13日(木) 18:30~19:30

豊竹 咲甫太夫、鶴澤 清志郎、吉田 一輔 /

グランシップ×d-labo静岡 タイアップセミナー
人形浄瑠璃 文楽の世界

日本を代表する伝統芸能のひとつ、「人形浄瑠璃 文楽」。ユネスコ無形文化遺産にも登録され、太夫・三味線・人形が三位一体で創り上げる総合芸術だ。今回は、文楽座の10月7日(土)グランシップでの公演を前に、タイアップセミナーを開催。海外でも活躍されている文楽技芸員の方々をお招きした。
太夫の豊竹咲甫太夫氏、三味線の鶴澤清志郎氏、人形遣いの吉田一輔氏の3人に、20分程度ずつそれぞれの特徴や役割について、実演を交えながらリレー形式でご紹介いただいた。

「人形浄瑠璃 文楽の由来について。」豊竹咲甫太夫氏

人形浄瑠璃は、江戸時代初期に、大阪で「竹本座」を作った竹本義太夫や、「竹本座」の座付作者だった近松門左衛門の活躍によって開花されたとされる。この「竹本座」を源流として、植村文楽軒が大阪で始めた一座が「文楽座」。文楽は、もともとは人の名前から由来している。

古道具屋を商っていた植村文楽軒は、浄瑠璃が好きで、大阪で「文楽席(ぶんらくのせき)」を経営するようになる。やがて、本業で得たお金を元手に、次々に小屋を買収、人形浄瑠璃の興行を活発にしていった。明治の頃には、ほかの人形浄瑠璃座は衰退し、「文楽座」のみが大阪に残る。これによって、“人形浄瑠璃=文楽”の図式が出来上がる。

文楽は、大阪で生まれた芸能なので、舞台はすべて上方(=大阪や京都付近。)となり、語りも上方のイントネーションだ。言葉の訛りの強さを感じることができる。太夫が一人で、すべての登場人物と、ト書きを語り分ける。

作品は、江戸時代の武士や貴族を題材にした「時代物」と、江戸時代の庶民の日常や、市井の話題(=いわゆる、ワイドショーで取り上げられるようなゴシップネタなど。)を取り扱った「世話物(せわもの)」といった2つに分類される。
歴史や国語の授業などで耳にしたことがある、近松門左衛門の『曽根崎心中』や、『女殺地獄』は、実在した心中事件や、殺人事件を脚色した「世話物」だ。
「世話物」の上演時間は、時間30分程度だが、「時代物」は12時間にもおよぶものもある。この2つは、“笑い”ひとつとっても、まったく異なる。実際に、豊竹咲甫太夫氏が「時代物」の侍の“笑い”を演じてくださった。

「侍の笑いは、だいたい2~3分。太夫の調子がよいと、長いこと笑い続ける。そうすると、お客さんからワーッとたくさん拍手が湧きます。すると、太夫は、さらに調子に乗ってきて、お客さんの拍手にさらに笑いを返す。そうして、だんだんを笑いが長くなっていくのです。こういった誇張した表現をするのが、時代物の特徴です。」

次に、「世話物」。こちらは、驚くほどあっさりとした笑い。同じ笑いでも、表現方法が全く異なることがよくわかる。

「太夫と三味線は、夫婦の関係。上手な三味線が太夫を助け、太夫がどんなふうに話そうとも、三味線は自然な形で寄り添い、息を合わせてくれます。」

ここで、太夫による侍の笑いに、三味線を加えたものを披露。太夫の大笑いに合わせて三味線がかき鳴らされ、感情が豊かに表現される。侍の笑いがより威風堂々と響き、会場から感嘆が漏れた。

「文楽における三味線の役割について。」鶴澤清志郎氏

次に、三味線の鶴澤清志郎氏が、三味線を奏でながら文楽における三味線の役割についての話をしてくださった。

文楽における三味線は、伴奏楽器ではなく、“演出効果楽器”でもある。
「太棹(ふとざお)三味線」と呼ばれる、サイズが大きいものを使用し、三味線を掻き鳴らす撥(ばち)も、缶ジュース1本程度の重さがある大型のものだ。

「三味線の胴部分には、犬や猫の皮が張られ、裏は破れるまでの約10年間、そのまま使用します。表側は、ほぼ毎公演張り替えます。ある程度経験を積んだ三味線弾きは、上質な猫の皮を張らせてもらうことができ、それが一つの目標にもなっています。」

弦の部分は、絹糸100%。一番太い1の糸、真ん中の2の糸、そして一番細い3の糸と、3本の弦が張られ、皮との間に駒(=こま。本体に弦の振動を伝えるための部品。駒がなければ、音が出ない。)を挟む。胴の部分が皮であるため、圧力がかからないよう、普段、駒は外してあり、演奏する10分ほど前に駒をはめる。三味線の絹の弦は伸びやすく、弾いたらすぐに音が下がってしまうため、度々の調弦が必要。上演中、合間に調弦している姿を見ることができる。

三味線の音を聴かせてもらいながら、その響きを確認する。胴の部分は、太鼓のような構造になっているため、弾きながら、叩くことも可能。「音程を出すことができる太鼓と言うこともできるかもしれません。」と鶴澤氏は話す。

「文楽は、悲劇を題材にした作品が数多くあります。弱い人間が、弱さゆえに苦しむという場面では、あまりきれいな音では物語にそぐわないことがあります。きれい過ぎず、聞き苦しくない音。そういった音が求められるのです。」

三味線は、太夫と一緒に物語を語っていく役割を果たし、感情表現の手助けや、物語の中で出てくるさまざまな音を奏でていく。チリンチリンとした鈴の音、ゴオーンゴオーンといったお寺の低い鐘の音、水が流れる音、風が障子を揺らす音、雲が立ち込めあやしげな雰囲気の様子、色っぽい女性が登場するシーンの様子、たくさんの男性が出てくる場面の様子…。さまざまな効果音ともいうべき音を三味線だけで巧みに表現し、参加者を文楽の世界へ引き込んでくれた。

「人形浄瑠璃の人形は、三人で動かす。」吉田一輔氏

最後は、人形遣いの吉田一輔氏が、舞台で見るだけでは知ることができない、人形遣いの事情や動かし方についての解説を加えてくださった。

人形は、人形の首から上の部分である首(かしら)と右手を動かす「主遣い(おもづかい)」と、左手を動かす「左遣い」、両足を動かす「足遣い」の3人で1体を動かす。

主遣いは、舞台での高さバランスを取るために、音が出ないよう、裏に草鞋(わらじ)がついた「舞台下駄」と呼ばれるものを履き、高さを出す。人形遣いの身長、演目により、舞台下駄の高さは変わり、馬に乗るシーンがある場合は、通常の3~4倍の高さがある下駄を履いて舞台を動き回る。人形は、軽いもので5kgから、鎧を身につけた武士ともなると、10kgになるというから、なかなか大変だ。

ヒノキでできた首(かしら)の中には、人形を動かす仕掛けが施され、この仕掛けを操(あやつ)ることで、目や眉、および口を動かし、喜怒哀楽を表現する。人形を動かす仕掛けは、多いものであれば顔だけでも5つにもなる。

人形の左手には、糸がついており、その糸が長い差し金についており、この差し金を動かすことで、人形の指や腕が動く。左手遣いは、人形から一番離れた位置にいるため、このような構造になっているそうだ。
「『○○の差し金で動く』という言葉は、裏で操作をするという意味で、語源は人形浄瑠璃から来ていると言われています。」

文楽の人形で、女形と男形の大きな違いは、足にある。女形の場合、着物で隠れるので、基本的には足はつけない。足遣いが着物の裾を持ち、まるで足があるかのような裾さばきを演じる。

たとえば、人形が膝をつくという単純な動作一つをとっても、主遣いが表情を動かし、右手で裾を持ち、左遣いが主遣いに合わせ左手を動かし、足遣いがちょうど膝のあたりの位置にこぶしで節をつくり、膝を装う。人形遣いは、後ろから操っているため、人形を前から見た様子はわからない。そのため、主遣いが、首(かしら)や、人形の型の動き、そして自身の腰のひねりをとおし、サインを出しているそうだ。

実際に、ゆっくり一連の動作をとおして、サインの説明を加えてくれたが、素人には理解が難しい。3人の呼吸を合わせ、まるで人形が生きているような所作を演じるのは、至難の技というのがよく伝わってきた。それもそのはず、人形遣いの世界に入ると、まず足遣いで10~15年、左遣いでさらに10~15年の修行を積み、主役の主遣いを演じられるようになるまでは、30年ほどの経験が必要だそうだ。

ここで、3人の希望者が、人形遣いを経験させてもらった。手の左右を別々の人が操作しているため、単純動作の拍手でさえ簡単ではない。顔が別の方向を向き、足を左右に動かすこともままならない。不自然な動きに、会場に思わず笑いが広がる。

セミナーの終わりには「雅楽之助の注進」という、戦況を知らせに来た侍の様子を約5分間、太夫、三味線および人形遣いの豪華共演で披露してくださった。舞台とは異なり、「d-labo 静岡」といった話し手と参加者の距離が近い状態での披露だっただけに、臨場感と迫力ある様子に大きな拍手が湧いた。

今回のセミナーでは、実演とユーモアを交えながら、堅苦しいと思われがちな伝統芸能の世界への距離を縮めてくれた。最後に、「今日は、文楽を初めて観たという方も多いとのこと。これからも、“文楽を観たい”という方が少しでも増えていくような活動をしていきたいですね。」と夢を語ってくださった。 文・河田 良子

講師紹介

豊竹 咲甫太夫、鶴澤 清志郎、吉田 一輔
豊竹 咲甫太夫、鶴澤 清志郎、吉田 一輔

豊竹 咲甫太夫(とよたけ さきほだゆう)
太夫
昭和58年6月、豊竹咲太夫に入門し豊竹咲甫太夫と名のる。昭和61年、素浄瑠璃の会「傾城阿波の鳴門」の巡礼おつるで初舞台。国立劇場文楽賞文楽奨励賞、大阪文化祭賞奨励賞、咲くやこの花賞、松尾芸能賞新人賞ほか受賞。平成30年1月、六代目竹本織太夫襲名予定。

鶴澤 清志郎(つるさわ せいしろう)
三味線
平成4年、国立劇場文楽第15期研修生となる。平成6年、鶴澤清治に入門、鶴澤清志郎と名のる。平成6年、国立文楽劇場で初舞台。国立劇場文楽賞文楽奨励賞、大阪舞台芸術新人賞、咲くやこの花賞ほか受賞。

吉田 一輔(よしだ いちすけ)
人形遣い
13歳のときに父・桐竹一暢に入門。桐竹一輔と名のる。昭和60年、国立文楽劇場で初舞台。平成16年5月、三代吉田簔助門下となり、吉田姓を名のる。国立劇場文楽賞文楽奨励賞、咲くやこの花賞、大阪文化祭賞奨励賞ほか受賞。