d-labo

SURUGA d-labo. Bring your dream to reality. Draw my dream.

イベントレポート

イベントレポートTOP

2017年6月15日(火)19:00~20:30

吉田 伸夫(よしだ のぶお) / 科学史家・サイエンスライター

宇宙の中の生命

宇宙は、138億年前のビッグバンで始まった後、銀河や星が次々に形成されて現在に至っている。しかし、宇宙といえども永遠ではない。恒星(こうせい)が最も盛んに形成されていたのは40~60億年前で、すでに多くの銀河に老化の兆候が見られ、明るく輝く恒星は減少の一途を辿っている。太陽系が作られてから地球上に大型の動物が登場するまで数十億年掛かったことから考えると、多くの生命が活動できるのは、宇宙全史からするとごく短い期間でしかない。今回のセミナーは、宇宙で生命が誕生するための物理的条件は何か、地球外生命を発見する可能性があるかどうかについて考察する機会となった。

宇宙の始まり=ビッグバンとは

今年の2月に新刊『宇宙に終わりはあるのか』を上梓した吉田伸夫氏。最新の現代科学をもとにした「ビックバンは爆発ではなかった」「138億年という歴史は宇宙全史で見ればごく新しい始まりの時期」といった宇宙論は刺激に溢れたものだ。

「今日はこの本の中から、とくに生命がらみの話を抜き出してお話したいと思います」

人類を含む地球上の生命、あるいは宇宙のどこかに存在しているであろう地球外生命、これらの生命が誕生したのは、むろん宇宙が存在するからだ。科学者の間で宇宙の始まりについての議論が始まったのは1920年代のこと。アインシュタインが一般相対性理論を前提に始めた議論は、やがてフリードマンやエディントン、ガモフといった科学者たちを介して「宇宙はビッグバンによって始まり、今も膨張しつづけている」といった説へと導かれていった。

「フリードマンは宇宙は球の表面のようなもので、それがどんどん膨れ上がっていると仮定しました。宇宙の始まりは、過去のある時期に、球の半径がほとんどゼロの状態だったときを指す。一般相対性理論を普通に 解釈すると、そのときの宇宙はきわめて高温高密度なので宇宙は爆発のような状態で始まった、とされました」

 ただ、そこには謎もあった。物理の法則にはもうひとつ、「エントロピー増大の法則」がある。
簡単に言うと「世界は放っておくとどんどん無秩序になっていく」という法則だ。もし始まりが爆発のような状態で あるのならば宇宙は、それよりもさらに無秩序な混沌になっていくはずだ。なのに、宇宙は銀河や太陽系を生み出しながら進化してきた。宇宙空間の温度を調べても、どこかしこも同じ摂氏マイナス270度で、 爆発ならば当然あるはずのムラがない。多くの科学者がその点に首を捻った。

「その謎を解明したのが1980年代になって出て来たインフレーション理論です」

虚無の空間だった宇宙にエネルギ―が物質を作り出した

 実は宇宙にはビッグバンの前にインフレーション(急膨張)の時期があった。そのときの宇宙は物質も何もない虚無の空間で、空間にためこまれた暗黒エネルギーの作用によって、ただひたすら膨張していた。 そして、あるとき暗黒エネルギーが解放されて熱となりビッグバンが起きた。この時点ではまだ物質がないからビッグバンとはいってもそれは爆発ではく、温度のムラも生じない。宇宙は整然とした高温状態から 始まり、現在に至っている、というのがこの理論だ。

「では現在の宇宙にある物質はどのようにして生まれたか。実は物質というのはエネルギーがあればできるものなんですね」

量子論に基づけばエネルギーは塊となることがわかっている。塊と化したエネルギーはあたかも粒子のように振る舞うが、これが素粒子である。「クォーク」と呼ばれる素粒子は集まって陽子や中性子となりそれらがさらに集まって原子核を形作る。こうしてできた物質に電子が捉えられると原子になり、原子は電気的な力で分子を作る。こうしてできた物質は原子核の種類に応じて多様化する。たとえば中性子8個と陽子8個なら酸素。7個と7個なら窒素の原子核となる。こうした安定的な原子核は200種類以上。その特徴は「ちょっとやそっとじゃ壊れない」ところだ。

「宇宙はちょっとやそっとじゃ壊れない原子核が何種類もあるから安定性と多様性を兼ね備えた世界となった。物質が生まれると、重力によって集まる。物質の元はエネルギーの塊ですから、ぎゅうぎゅうに押し込められると内部のエネルギーが放出され、熱を出す。こうして生まれたのが太陽のような恒星です」

 物質は集まるときに渦を巻く。太陽系のある天の川銀河など多くの銀河が渦を巻いているのはそのためだ。ならば生命はどのようにして生まれるか。その条件は「低温の環境に高温の熱源からエネルギーが注ぎ 込まれること」だ。

「惑星は恒星から離れているので冷たい。その冷たい環境下に恒星の光がやってくると化合物がどんどん複雑になる化学反応が起きて生命が誕生するというわけです」

 むろん、事は簡単には進まない。銀河内での位置や必要とする元素、恒星からの距離、天体の大きさ、化学反応を促進する水の存在、さらに数億年以上という時間的余裕などの条件がそろわなければ、生命は進化しない。「私たちには地球というサンプルしかなく、生命に関する知識が乏しい」という前提の下でだが、生命が誕生するには「恒星は太陽の数十パーセントか同じくらいの大きさ、惑星は地球と同じ岩石惑星で、地球より少し大きいくらい」がちょうどいい。恒星は太陽より大きいと寿命が短くなるし、惑星は地球より小さいと大気が薄くなるからだ。生命が誕生する条件はけっして甘くはないということだ。

宇宙に生命が存在するのはほんの一瞬

 最近は観測技術の発達で次々に太陽系外の惑星が発見されている。だが、大部分の惑星は生命の発生には不適な環境にあるという。

「それでも可能性のある惑星はある。NASAは高性能の望遠鏡でそうした星の大気成分を調べて生命活動の痕跡を見つけ出す計画を立てています」

 広い宇宙には必ずや生命の存在する星があるはず。しかし、宇宙に生命が存在できるのはごく短い期間でしかない。

「銀河が次々と新しい桓星恒星を作っていった最盛期は今から数十億年前。この頃に生まれた恒星が今は中年期を迎えています」

 太陽の寿命は百億年。他の恒星もやがては燃え尽きて白色矮星(はくしょくわいせい)という暗い天体になる。そうやって考えると「銀河が元気に活動できるのはせいぜい数百億年」だという。力を失った星々はブラックホールに呑み込まれ、そのブラックホールも「100億年の100億倍の100億倍の・・・」という長い時を経ると、最後は蒸発する。宇宙は暗黒と化し、その状態がほぼ永遠につづく。

「宇宙にとって何百億年というのはほんの短い時間でしかない。我々は花火が打ち上がってパーンと開いた、キラキラとした瞬間に生きているんですね。生命が存在できるのは、宇宙の始まりのほんの一瞬で しかないんです」

夢は「宇宙の知的生命体に会うこと」と語る吉田氏。

「やはり宇宙人はいてほしい。可能性は高くないけれど、自分が生きているうちにそれが見つかったという報告がほしいですね」

講師紹介

吉田 伸夫(よしだ のぶお)
吉田 伸夫(よしだ のぶお)
科学史家・サイエンスライター
東京大学大学院修了(専攻は素粒子論)、理学博士。東海大学・明海大学などで科学史・科学技術論の講義を担当した後、現在は執筆業に専念。近著『宇宙に「終わり」はあるのか』(講談社ブルーバックス)、『量子論はなぜわかりにくいのか』(技術評論社)。