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イベントレポート

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2016年9月18日(日)13:30~15:00

佐藤文典、小倉大介 /  

音楽で人生を豊かにしませんか?
~英国製の蓄音器で聴く音楽の真髄~

CDやMP3のおかげで、どこにいても何度でも、高品質の音楽を聴くことができる現代。しかし、CDが発売されたのは、ほんの30年ほど前のこと。それ以前は、レコードやカセットテープが主流で、何度も繰り返して聴くと、レコードなどに傷が付いて音が変わってしまうことも少なくなかった。そう考えると、音楽メディアの歴史は、ここ最近で飛躍的に進化したといえる。

ところで、地球上で最初の音楽メディアは何かというと、1877年(今から140年ほど前)のアメリカで、エジソンによって発明された蓄音器である。今回の講座は、講師に、すみやCクラブを主催されている佐藤文典氏と、蓄音器愛好家の小倉大介氏を迎え、100年以上前の英国製蓄音器の音を聴くことができる貴重な機会。受付開始前から多くの参加者が蓄音器やレコードの前に集まり、お互いの知識を語り合っている様子からも関心の高さがうかがえた。

100年以上の時を経て耳に届く、圧倒的な音の存在感

目の前にあるのは、大小2台の蓄音器。1台は、机の上に置けるほどコンパクトなもので、ラッパのような細長いホーンが付いている。もう1台は、高さが1メートル以上もある木製の箱のような形で、ボディはピカピカに磨かれていた。「今日初めて蓄音器の音を聴く人はいますか?」という小倉氏の質問に、数人の手が挙がった。

「説明をするよりも、まずは音を聴いた方が早いですね。」と小倉氏は言うと、小さい方の蓄音器をセットし始めた。「これは、1905年のモデル、つまり、今から110年ほど前のものです。」その蓄音器は、円盤のレコードが開発される前のもので、ホーンの先に針をつけた振動板を取り付け、その針が円筒のシリンダーに刻まれた傷をなぞることで音を出す仕組みだという。蓄音器から流れる音は、CDのクリアな音とは全く違い、どこか懐かしくて温かく、心躍るような音色だった。音と音の間にプツプツと聞こえる独特のノイズも耳に心地よく、もっと聴いていたいと思わせる優しい印象を受けた。

もう1つの蓄音器は、大人の腰の上ほどの高さがあり、その大きさに圧倒された。これは、1927年の英国製で中身も当時のままのオリジナル。当時は、家が一軒買えるほど高価なもので、上流階級によって使われていたのだという。この蓄音器にSPレコードをセットし、ゼンマイを巻いて針を落とす。SPレコードとは、LPレコードが出る前のレコードのことで、LPレコードが33.3回転するのに対し、SPレコードは1分間に78回転。さらに、決定的な違いは、今回の蓄音器は電気を一切使用しないという点だという。針がレコードの上をこすり優しい音のノイズが響いた次の瞬間、その音色に誰もが驚いた。まるで箱の中で誰かが歌っているかのように、リアルに響く歌声。普段聴き慣れているCDの方が、音がクリアに聴こえるにもかかわらず、蓄音器の音は、臨場感が全く違っていた。録音した時の息遣いや、その場の空気の震えまでも、時を超えて体感しているような圧倒的な存在感。d-labo会場にいる全ての人が、音のシャワーを全身に受け、1人ひとりが静かにその音色に聴き惚れていた。

自らの身を削って音を出してくれる、針やレコードに感謝

1曲目が終わるとすぐ小倉氏は、立ち上がって針をあげ、SPレコードを丁寧に取り出した。そして、次のSPレコードをセットし、1曲目の時と同様にゼンマイを巻き、新しい針をセットした。その連続した美しい動きを見ながら次の曲を待つ時間さえ、蓄音器の楽しみの1つのように感じた。その間にうかがった佐藤氏のお話も、蓄音器や音楽家への愛にあふれたものだった。「SPレコードは、78回転もするので、針はすぐに削れてしまうんです。だから、3~4分聴いたら新しいものに変えなくてはいけません。まさに、自らの身を削って、美しい音を出してくれているのです。SPレコードも、落としたら簡単に割れてしまう繊細なもの。だから、私たちは、針やレコードに感謝して聴かなければいけません。」
今回は、1時間半の間に、9曲ものSPレコードを聴かせていただけるという。佐藤氏は、それぞれの曲の前に、演奏家や歌手の生い立ちはもちろん、その曲が生まれた当時の時代背景も含めて丁寧に解説してくださった。

1.【曲目】歌劇「アイーダ」より「清きアイーダ」(ヴェルディ)
【歌手】エンリコ・カルーソー(テノール)w/Orch.
レコーディングすると魂が抜かれるという迷信を打ち消した、イタリアの太陽と呼ばれた人。豊かでしっかりとした音が印象的。

2.【曲目】明るい夜(アルフ・フールム)
【歌手】キルステン・フラグスタート(ソプラノ)w/ピアノ
透明な声を持つ、ノルウェーの女神。声のふるえまで伝わってくる臨場感とピアノの響きが心地よい。

3.【曲目】夢のあとに(フォーレ:カザルス編曲)
【演奏】パブロ・カザルス(チェロ) w/ピアノ
チェロの神様と言われたカザルス。哀愁のある音は、幅広い年齢の聴衆をとりこにしたという。

4.【曲目】セレナード(シューベルト:エルマン編曲)
【演奏】ミッシャ・エルマン(ヴァイオリン)w/ピアノ
エルマントーンと言われた、ビロードのような甘い音色に聴き惚れてしまう。1937年に東京で吹き込んだ音。

5.【曲目】インディアン・ラメント(ドヴォルザーク:クライスラー編曲)
【演奏】諏訪 根自子(ヴァイオリン)w/ピアノ

6.【曲目】奴さん(幕末に出来た端唄)
【演奏】藤本二三吉(三味線・鳴り物入り)

7.【曲目】羽根の禿(長唄~初代杵屋正次郎)
【演奏】松永和風 三味線 杵屋五三郎、杵屋勝丸

8.【曲目】ピーターと狼(プロコフィエフ:D.J.Grunes編曲)
【演奏】リカルド・オドノポソフ(ヴァイオリン)w/ピアノ

9.【曲目】G線上のアリア(バッハ)
【演奏】ロゼー弦楽四重奏団

メンテナンスをして受け継いでいく、貴重な音の歴史

参加者の中には「終戦以来、こんな立派な蓄音器で聴いたことがなかった!」と感動する人や、「蓄音器がこんな素晴らしい音だったなんて知らなかった。」という人も。予定していた90分の講演終了後も、参加者に貴重なレコードを気軽に触らせてくださったり、ゼンマイを巻かせてくださった。「自分も蓄音器を前にすると、つい触ってみたいと思ってしまうタイプなんです。せっかくですから、実際にレコードを持って重みを確かめたり、部品を触ってみてください。」と小倉氏。参加者からのリクエストに応じて、珍しい竹針での音色も聴かせてくださったり、万が一故障した時のためにと持参した、ポータブル蓄音器の音色も聴かせてくださった。

当然のことながら、蓄音器の製造は、どの国でも終了しているので、 マニアであっても状態の良いサウンドボックスを探すのはとても難しいという。さらに、定期的なメンテナンスが必須で、蓄音器の世界では神の手とも異名を持つ方の住む埼玉まで出向いて、メンテナンスを依頼することもあるという。そんな限りある貴重な音を、惜しげもなく聴かせてくださったことに感謝しなくてはならない。もちろん、自らの身を削って音を奏でてくれた、針やレコードにも。

最後に、お二人の今後の夢を伺った。「レコードは、数十年経っても聴けるもの。これからも作曲家を大切にして、良い音楽を伝えていきたい。90歳までは、現役で頑張りたいですね。」と佐藤氏。「最近は、家で音楽を聴かない人が多くなったと聞きます。もっとこういう機会を増やして、少しでも興味を持ってもらえたら嬉しいです。」と小倉氏。お二人は、自分たちだけで聴くのはもったいないと、静岡や新潟で、蓄音器コンサートを開催し、多くの人に貴重な音を届ける活動を続けている。

忙しい日々の中、時間を忘れてタイムスリップしたような蓄音器の音色に耳を傾けた90分。それは、配布されたプリントに書いてあった、この言葉のとおりだった。

「今日は良い音楽を聴いた。」
そう感じて帰路についていただけたら嬉しいです。~佐藤文典、小倉大介~

※当日のセミナーのコラムが2016年9月29日(木)静岡新聞朝刊の大自在に掲載されました。

講師紹介

佐藤文典、小倉大介
佐藤文典、小倉大介
 
佐藤 文典(さとう ふみのり)
1950年生まれ。1972年すみや入社より、クラシック売り場を担当。本場の音楽を求め渡欧も多数。1996年からクラシックをより深く、楽しく聴こうとするコンセプトですみやCクラブを主催。現在に至る。定年退職後は小倉大介氏とともに静岡・新潟にて蓄音器コンサートを多数開催。

小倉 大介(おぐら だいすけ)
1968年生まれ。静岡市出身。蓄音器愛好家。佐藤文典氏とともに静岡・新潟にて蓄音器コンサートを開催。