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2015年10月6日(火)19:00~21:00

梶原 しげる(かじわら しげる) / フリーアナウンサー

日本語偏執帳

「偏執」とは「一つのことに病的に熱中すること」を言うようである。「こだわる」の程度の高い(ひどい)、深刻な状況が浮かんでくる。今回は、さまざまな言葉、表現を例に出し、梶原氏が自身で「偏執的」と評する、言葉への強い「こだわり」を披露していただいた。

浅田真央選手の「ただいまでーす」は正しい日本語か?

電車の車内で、街角で、人々のかわす言葉に耳を傾ける。テレビを観たり、新聞を読んでみても気になる表現があったりする。
「言葉は観察していると、意外とおもしろい発見があります。しかも一銭もかからない。これをひとつの楽しみにしていただいたら、いかがかなというのが今日の提案です」

6月につづいて二度目の登壇となった梶原しげる氏。今回のセミナーでも自らが「偏執的」と評する日本語への「こだわり」を披露。最新のトピックから審議委員を務める『日本語検定』の過去問題まで、多様な観点から日本語のおもしろさについて語っていただいた。

冒頭の話題はフィギュアスケートの浅田真央選手。つい先日、1年半ぶりの復帰戦である『ジャパンオープン』で見事トリプルアクセルを決めて、自己ベストに近い高得点をマークした浅田選手。翌日の新聞各紙が見出しにしたのは「ただいまでーす」というファンへの言葉だった。「わたしにとってこの言い方は非常に新鮮でした」と梶原氏。「ただいま」は、「こんにちは」や「へえ」、「もしもし」などと同じ感動詞。実は、感動詞に丁寧語の「です」をプラスするのは伝統的な日本語の用法からすると「アウト」とされている。しかし、浅田選手はその禁を破って平然と「ただいまです」と挨拶した。
「これはけっして嫌な感じはしませんでしたね。本当は〈ただいま〉なんですが、それだと待っていてくれたみなさんに失礼な感じがする。だからそこに丁寧語をつけたんですね。こういうのを〈生きた日本語〉というのだと思います」

『日本語検定』はあくまでも「伝統的で多くの人に理解される言葉」を正解としている。ただし、「〈ただいまです〉のように非伝統的な言葉を容認しないようにとは言っていません」。言葉というのは、その持つ意味も用法も常に「揺れている」。その「揺れ」がまたおもしろくもある。他にも梶原氏が「粘着的にひっかかっている言葉」をいくつかチェック。たとえば駅のトイレなどでよく見かける「いつもきれいに使っていただきありがとうございます。」という表示。初めて使うトイレなのに「いつも」とはどういうことか。これは「あらかじめの感謝というひとつの表現」なのだという。コンビニでよく聞く「お弁当温めますか」は「思わず、私が温めるんですか、と聞き返したくなります」。
「こんなふうに、いちいちつっかかるのは病的。でもそれが楽しいんですね」

「気になる」常套句

言葉には、耳にしていて「気になる」言葉というものがある。ここでは日本新聞協会が特集した「放送で気になる言葉」をいくつか紹介。通販でよく聞く「気になるお値段」や、ニュース番組中、天気予報に移る前にキャスターが口にする「気になるお天気」など、この種の常套句は「人を不愉快にさせる可能性がある」と新聞協会は訴えている。
「紋切り型の常套句は確かに楽です。だけど優れたキャスターはけっして毎回は言わない。例えば古館伊知郎さんが〈気になるお天気〉と口にするのは台風など、本当に大変なときだけです」

おもしろいのは「自動詞」と「他動詞」の入替え。駅でよく聞くアナウンスの「ドアが閉まります」は、本当であれば、他動詞を使った「ドアを閉めます」が好ましい。ただし他動詞は言い方がきつく感じるので、東京の鉄道会社は自動詞であたかもドアが勝手に閉まるかのようなアナウンスをしている。一方で大阪では自動詞を使ったアナウンスを他動詞に切り替えた例もある。
「大阪モノレールでは、定時運行が困難なほどの混雑に対処するため、アナウンスを〈ドアを閉めます〉に切替えました。すると無理な駆け込み乗車をする人が減ったそうです」

もうひとつ最近の傾向で「考察してみるとおもしろい」のが「短縮形」。木村拓哉を「キムタク」と呼ぶのは古くからある「頭2文字と後ろ2文字をくっつける」という原則的な短縮形。しかしこの頃は「スタバ」、「ファミマ」、「ミスド」など、発音すると3文字になる短縮形が目立つ。アクセントにしても若者を中心に最近は名詞や質問などの多くが尻上がりに発音されることが増えた。
「『グーグル』も『ライン』も〈食べたくないですか?〉という質問もアクセントは尻上がり。その中で『ヤフー』だけは尻上がりでない。なぜでしょうか。こういうところに研究の余地があるんですね」

言葉は次々と「揺れ」て「変化」していくもの

セミナー後半では参加者全員に配布した『日本語検定』の過去問題を解説。日本語検定の基準はいちばん易しい3級が「大学を出て社会人になるのにちょうどいいレベル」。2級は「若干マニアック」で、1級は梶原氏でも「歯が立たないレベル」。ここではそのうち2級と3級の問題に触れてみた。

1問目は「止められ」か「止めれ」かの「ら音脱落=ら抜き言葉」の問題。日本語検定としての正解は当然ながら「止められ」。ただ、実際のところ「ら抜き言葉」は辿ってみると、昔からあったものだともいう。それが騒がれるようになったきっかけは、1981年の毎日新聞の投書欄に〈最近のら抜きが気になる〉という投書が載ってから。この頃から若者たちの間では「ら抜き言葉」が主流。それならば数十年経った今ではすべてが「ら抜き」となっていてもおかしくないのだが、現在も人々はフォーマルな場ではちゃんと「ら」のついた言葉を話す。というのも、「言葉には加齢による言語選択の保守化」という現象があるからだ。
「人は歳をとると酒の好みもビールから熱燗に移ったりする。言葉もそれと同じですね」

日本語の「揺れ」を知るうえで参考になるのが、文化庁の「国語に関する世論調査」。最新の平成26年度版では「本来の意味とは逆に認識される言葉」に注目。「やばい」や「微妙」、「枯れ木も山の賑わい」、「流れに棹さす」、「役不足」、「世間ずれ」、「ぞっとしない」、「うがった見方」などはかなりの割合の人が誤用している。そして、その誤用も最近の用例として認める辞書もあったりする。
「言葉は次々と揺れて大衆の支持によって変化するもの。みなさんもそれを楽しんで豊かな日本語ライフを送ってください」

梶原氏の「夢」は2020年の東京オリンピックまでに「通訳案内士の資格を取る」こと。「たいへん難しい試験なんですけれど、この場で言っちゃった以上はやろうと思います」

講師紹介

梶原 しげる(かじわら しげる)
梶原 しげる(かじわら しげる)
フリーアナウンサー
早稲田大学卒業後、ラジオ局文化放送入社。ラジオパーソナリティー、司会者、大学講師など幅広いジャンルで活躍。シニア産業カウンセラー、認定カウンセラー、日本語検定審議委員。新刊に12月発売予定『まずは“ドジな話”をしなさい』(サンマーク出版)、『新米上司の言葉かけ』(技術評論社)。『口のきき方』『即答するバカ』『すべらない敬語』(新潮新書)など、「ことば」「コミュニケーション」「メンタルヘルス」に関する著書多数。