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イベントレポート

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2015年6月16日(火) 19:00~21:00

小沢 章友(おざわ あきとも) / 小説家

あなたも小説家になれるⅡ
-ジャンル別小説作法-

「小説を書くことは、みなさんが考えているほど、難しくはありません。本当は誰でも書くことができるのです。要は書き方を学べばいいのです」。純文学から、ホラー、ミステリー、ファンタジー、ユーモア小説、歴史・時代小説、児童文学と幅広いジャンルを書き分けてきた小説家の小沢章友氏はそう語る。今回は、小沢氏に「小説を書くための眼からウロコの秘訣と骨法」を、ワークショップを交えながら、2回に渡って、わかりやすく教えていただくためのセミナーを開催。第2回は、「ジャンル別小説作法」。恋愛、ミステリー、ファンタジーなど、ジャンル別の小説作法やストーリーを展開させるテクニックについてご解説いただいた。

ファンタジーでは「主人公の成長と変化」を書く

2回目を迎えた小沢章友氏による小説教室。スタートは「前回のおさらい」から。

「何かを書こうと思ったら、まず原型となる物語を見つけてください」

たとえば小沢氏が今年刊行した『プラネット・オルゴール』は「ギリシャ神話のオルフェウスとエウリディケの話と仏陀の言葉がベースになっている」。最愛の妻を亡くしたオルフェウスが黄泉の国へと行き、「絶対に途中で振り返らない」という約束のもとにエウリディケを連れ帰る。しかしつい振り向いてしまったためにエウリディケは黄泉の国へと戻ってしまう。オルフェウスは失意を抱えたまま殺され、最後は星になる。小沢氏は作品を創るときにこの「オルフェウスの神話」に、仏陀の「汝愛する者に出会うなかれ」、「汝愛さざる者に出会うなかれ」という人を愛することの大切さを説いた言葉を加えて原型を形づくってみたという。『プラネット・オルゴール』は、主人公の青年が11歳で亡くなったヒロインの少女を回想するといった物語。永遠に残るであろうオルゴールの音楽は、「喪失のあと」には「永遠の命」があり、それが「癒し」となることを教えてくれる。

「結局、表現というのは作者の心なんですよね。自分が好きな原型となる物語に今の自分のシチュエーションを当てはめてみる。するとまったく違う物語ができるんです」

この日のテーマは「ジャンル別小説作法」。これまで多岐にわたるジャンルの作品を書いてきた小沢氏。「自分がなぜそうなっていったか」を考えると、辿り着くのはやはり「読書体験」だという。幼年期に夢中になったのは『西遊記』や『アラビアンナイト』。これが大人になってファンタジーを書かせることになった。

「ファンタジーの原則は〈自分の夢〉です。こうであったらいいなという願望を書くのがファンタジー。例えば『西遊記』は未熟な存在が力のある存在へとなってゆく、子どものための教養書です。主人公がファーストシーンにどういう姿で出て来て、ラストシーンでどんな姿になっているか。ファンタジーでは主人公の成長と変化を書くといいです」

主人公のキャラを創るときは「マイナス要素を与える」

小学生時代は白土三平の『忍者武芸帳』や柴田錬三郎の『眠狂四郎』シリーズに夢中になった。これで「時代小説」や「歴史小説」に目覚めた。それだけでなく「眠狂四郎」という魅力的な主人公からは「キャラの大切さ」を学んだ。

「前回も言ったように、編集者はおもしろいストーリーと魅力的なキャラのどっちをとるかといったら、キャラを選びます」

主人公のキャラを創るときに「手っ取り早い」のは「マイナスの要素を与えてあげること」。「眠狂四郎」は「転びバテレン」と日本人の美女の間に生まれた混血のキャラ。自分の運命を呪って生きる主人公はまさに「マイナス要素を与えられたキャラ」の典型だ。

時代小説や歴史小説を書くときも早道は「お手本」をひとつ決めることだという。

「山本周五郎が好きなら山本周五郎の作品を原型にする。僕の場合はそれが柴田錬三郎さんでした。あとは歴史の資料で勉強する。現代物と違って歴史物、時代物はこの勉強が必要です」

恋愛小説を学ばせてくれたのは前回も登場した『赤と黒』。主人公のお相手であるレナール夫人とマチルドという二人の女性は「僕の夢にまで出てきました」。そうやって知った恋愛小説の基本は「成就しない恋」を描くこと。

「成就しない恋愛とは何か。例えば、人間と神、兄と妹。不可能とされている恋愛をテーマにしてみるのもひとつの方法ですね」

エンターテイメント系の海外小説からも影響を受けた。レイ・ブラッドベリの『何かが道をやってくる』は、SF、ホラー、ファンタジーのすべての要素が詰まった一作。エンターテイメントでありながら詩的で美しい文章には、「詩+ファンタジーという書き方があったんだ」と教えられた。他にもエドガー・アラン・ポーや上田秋成、マシュー・グレゴリー・ルイスといった作家たちから「恐怖=美」といった世界を教えてもらった。初めて児童文学を書いたときは、編集長がすすめてくれた『トムは真夜中の庭で』と『指輪物語』が参考になった。

誰にでも「自分だけの物語」があるはず

「大学を卒業してプータローをしていた」という「いちばん苦しい時期」に読んだのはチェーホフの『決闘』。「人生の出口を見つけることができるのは正直者かペテン師のどちらかだよ」という物語は、出口を探そうともがいていた自分に「響いた」。それが開高健奨励賞受賞作である『遊民爺さん』につながった。『遊民爺さん』は「出口をどうやって見つけるかがテーマ」となっている作品。たまたま何度か美術館で見かけたことのある「芸術好きの爺さん」をヒントに「芸術が好きだけど創造者になれない80歳の爺さん」と「まだ何がなんだかわからない18歳の未熟な〈僕〉」を登場させてみた。実は2人のキャラはどちらも「作者=自分」だという。

この作品には印象深いエピソードがある。作品を応募してしばらく経った頃、偶然キャラのモデルとなった「爺さん」を池袋の美術展で見かけた。「あれ、ここで爺さんに会ったということは、あの作品がうまくいっているのかな」と思ったその晩、賞を主催する出版社から「あなたの作品が最終候補に残りました」という電話を受けた。

「やっぱり世の中にはある種の因縁のようなものがあるんですよね。『遊民爺さん』は現実の芸術好きの爺さんに、自分はこれからどうやって生きていくんだろうと困り果てていた自分の心を足しているわけです。みなさんたちも、この人は使えるなと思ったら、そこに自分の心を足して書いてみてください」

文章を書いているときは常にこの「心」が必要だ。「小説教室がある」というただの説明文も、そこに「おもしろそう」という自分の「心」を加えて「おもしろそうな小説教室がある」とすれば、立派な描写文となる。そして物語は「誰でもひとつは書ける」。なぜならば人間は皆「誰のものでもない自分だけの困難な人生」を辿ってきているからだ。

「自分は誰にも書けない物語を持っている。そう自覚して書いてみてください」

小説を書くとは「ひとつの世界を創ること」。一冊の物語を書きあげたときの「全能感」。それは作者だけが味わうことのできるものだ。

「僕の夢は世界文学に匹敵する絶対唯一の代表作を書くこと。難しいだろうけれど、今書いている作品がそうなればと願っています」

講師紹介

小沢 章友(おざわ あきとも)
小沢 章友(おざわ あきとも)
小説家
1949年佐賀県生まれ。早稲田大学第一政治経済学部卒業後、コピーライターを経て作家に。十文字女子大で17年間、文章講座を担当。現在、実践女子大の生涯教育センターで、「小説の書き方伝授します」の講師を務めている。1993年『遊民爺さん』で第二回開高健賞奨励賞受賞。1994年『曼陀羅華』で第一回角川ホラー大賞最終候補。主な著書に、『夢魔の森』(集英社)、『運命の環』(文藝春秋社)、『曼陀羅華』(講談社)、『龍之介地獄変』(新潮社)、『怪域』(朝日新聞社)、『不死』(小学館)、『三島転生』(ポプラ社)、『龍之介怪奇譚』(双葉社)などがある。近著は、『運命師降魔伝』(双葉社)、『プラネット・オルゴール』(講談社)、『あやか師夢介元禄夜話』(白泉社)、2015年6月刊行予定の『世界で一番美しい詩』(実業之日本社)がある。