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イベントレポート

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2015年6月11日(木) 19:00~21:00

神田 沙織 (かんだ さおり) / ものづくり系女子/株式会社wip 取締役

見えないアイデアをプリントする

紙のプリンタで文字と図表が、3Dプリンタでは立体形状がプリントできるようになった現在、プリントという言葉も、紙にインクを載せることに限らず、広い意味でのアウトプットを意味するようになってきています。2D表現でドキュメント化された情報を自由に共有できる私たちは、3D表現で「手に取るように」思いを伝えられるようになるのでしょうかと神田氏は語る。SサイズのFABマシンが集まる「Little Machine Studio」でのスタジオワークを紹介いただきながら、FABマシンが可能にする表現を考える機会となった。

「ものづくり系女子」として、3Dプリンタを「勝手に広報活動」

セミナー開始と同時に参加者の手から手へと回覧されたのは手の平サイズの女性の胸像と、シャンパンやワインボトルにかぶせるための花をモチーフにした瓶飾り。どちらも神田沙織氏自らが製作に関わった3Dプリンタによる作品だ。工業用から家庭用まで、神田氏がこれまでに触れたという3Dプリンタは約10機種。手がけた製品や作品は約1万個。そんな神田氏が3Dプリンタと出会ったのは大学卒業後、新卒で就職した製造コンサルティング会社だったという。

「大学では経済学専攻。理系っぽい要素はなかったんですけど、たまたま就職した会社が3Dプリンタの関連企業だったんですね」

配属された部署での仕事は3Dプリンタの技術営業。扱うものは「1台1億円前後のお高いマシンばかりだった」が、女性ならではの視点で「ネットでオーダーすることで1個から作れるおしゃれな商品」を企画してみた。今回見せてくれた瓶飾りはそのひとつ。細かく複雑な造形は3Dプリンタならではのものだ。

3Dプリンタ関連企業2社に6年ほど勤務してから退職。転職先はアパレル業界。「大変身」のようで、そこには「個性的なファッションも3Dプリンタも新鮮という意味では同じ」という思いがあったという。

「もしかしたら私はちょっとマニアックなものを紹介するのが好きなのかもしれません」

現在はセレクトショップの広報をしながら内神田にあるシェアスペースで『リトル・マシン・スタジオ(LMS)という3Dプリンタなどを設置したファブスペースを運営。「モノづくり」をする女性をメンバーとした「ものづくり系女子」を主宰し、引き続き3Dプリンタの普及や啓蒙に務めている。活動の中身は「勝手に広報活動」。フリーな立場で3Dプリンタについて語り、その魅力を世の中に伝えている。

待たれるのは3Dプリンタ版『ルンバ』

画像で見せてくれたのは、さまざまなジャンルの女性クリエイターが作品を発表する渋谷パルコの『シブカル祭。』での1コマ。そこには神田氏が持ち込んだ3Dプリンタに興味を示して群がっている若い女性たちの姿がある。こうしたことは3Dプリンタ関連企業にいた頃でもなかったもの。若い女性たちは知識がないかわりに先入観もない。「なにこれ?」「すごくない?」という反応に「単純におもしろいと思ってもらえることがこんなに楽しいのか」と「自分でも驚いた」という。『Little Machine Studio(以下LMS)』では隔週金曜日に「ファブの会」を開催。集まった人たちからアイデアを集めて、それを3Dプリンタやレーザーカッターといったデジタルものづくりマシンで実物化している。ちなみに「ファブ」とは「DIYよりももっと気軽にできるモノづくり」のこと。最近では3Dプリンタブームを中心に、全国にこうした『LMS』のようなファブスペースが増えている。とりわけ『LMS』は3Dプリンターといった最先端技術を女性が中心となって扱っているということでメディアにも注目されている。ものづくり系女子として、これまでに数々の新聞や雑誌、ウェブサイトインタビューなどに登場。神田氏自身も共著で3Dプリンタの構造や仕組をわかりやすく伝えるためのハンドブックを出版している。

これだけ話題となっている3Dプリンタ。しかし現在日本にある家庭用3Dプリンタの数はわずかに9,000台しかないという。神田氏自身は「そのうちの3台」を所有している。

「大学や企業では複数台を導入しているところも珍しくありません。こうしてみると、実際のところいったいどれだけの世帯が3Dプリンタを購入しているのか考えてしまいますね」

ここで引き合いに出してみたのが「お掃除ロボット」。『ルンバ』に代表される「お掃除ロボット」は現在日本では約60万台、200人に1人が所有している。そのうち7割を占めるのが『ルンバ』。つまり「お掃除ロボット」の市場は『ルンバ』というヒット商品に牽引されているといった状況にあるといえる。

「3Dプリンタで待たれるのは『ルンバ』のような製品。そのためにはやはり日本の大手家電メーカーに3Dプリンタの技術を用いた新製品を開発してほしいと願っています」

「気持ち」を「言葉」にすることで「見えないアイデア」は「プリント」になる

『ルンバ』は「ロボット」に「お掃除機能」をプラスしたもの。それが人気につながった。3Dプリンタも本格的に普及させるには「3Dプリンタという名前がなくなった方がいい」。「3Dプリント」に「料理」を加えて「フードプリンタ」に、あるいは「洋裁」とつなげて「ドレスメーカー」にするといった工夫が望まれる。神田氏も「使い方の部分での発想や開発が必要」と考え、「ファブの会」などで仲間たちとアイデアやデザインを交換、共有しあっている。2014年からは出身地でもある大分県の大分県立芸術文化短期大学で「デジタルモノづくり」の集中講座を担当。「プロダクトフォーサウザンド=1,000人のためのモノづくり」をテーマに、学生たちのアイデアを3Dプリントで実現するという授業を行なっている。「1,000個(人)」という数字は、大手メーカーの大量生産とは違う「個人や小さなチームでの製作が可能」で「開発から生産、流通、小売りまでの全工程を把握できる」というひとつの目安。まさに3Dプリンタが得意とする「モノづくり」だ。授業ではまず学生たちの頭の中にある「見えないアイデア」をスケッチにする。そこからパソコンの3Dキャドでデザイン化。そうやって生まれた作品はどれも当然ながらオリジナルなアイデアに満ちている。タイツ柄のデザインテンプレートであったり、パズル状の茶托(ちゃたく)であったり、既製品のポットに収納できるカップであったり、見た人が「何ですかこれ?」と思わず聞かずにはいられないものばかりだ。

3Dプリンタの最大の魅力は「アイデアを具体的に形にできるところ」。とはいえ、大半の人は「さあどうぞ」と言われても「いや、何を作ればいいのか……」となってしまう。

「もしかしたら私たちは立体のものを自由に作るということに不慣れなのかもしれません」

まだ見えていないアイデアを呼ぶには、たとえばまず「この面倒な作業をなくしたい」といった気持ちを「言葉にしてみる」。そういった発想や欲求から生まれる形。それを具体化してくれるものが3Dプリンタだ。

神田氏の「夢」は「工場をつくって工場長になること」。その「夢」を与えてくれたのは、製造業に関わる父親だという。

「父はこれまでに地元の大分やタイで工場を3つつくりました。私も父を見習って工場をつくりたいと思います」

講師紹介

神田 沙織 (かんだ さおり)
神田 沙織 (かんだ さおり)
ものづくり系女子/株式会社wip 取締役
1985年生まれ。日本女子大学家政学部卒業。著書「3D Printing Handbook」他。190名の「ものづくり系女子」リーダーを経て株式会社wipを起業、取締役に就任。非常勤でセレクトショップ「Lamp harajuku」プレスも務める。2008年から3Dプリントサービス運営に関わり、日本で一番3Dプリンタにくわしい女子。2013年より公益財団法人ハイパーネットワーク社会研究所共同研究員、FabLabOita企画運営に携わる。2014年より大分県立芸術文化短期大学非常勤講師。