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イベントレポート

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2015年3月12日(木) 19:00~21:00

秋本 俊二(あきもと しゅんじ) / 作家/航空ジャーナリスト

もっともっと"空の旅"を楽しもう
~客室乗務員たちが演出する雲の上の多彩なドラマ

旅とは、目的地に着いてから始まるものではありません。目指す先がどこであれ、出発地の空港の搭乗ゲートをくぐった瞬間から旅は始まる──秋本氏はいつもそう主張してきました。機上では、客室乗務員たちが心からのもてなしで旅の始まりを演出してくれます。彼女たちはどんな夢をもって「空の世界」を志し、どんな訓練を積んでその夢を叶えたのか? どんなことを心がけてサービスに当たっているか? 世界の空を旅しながら取材を続ける秋本氏だからこそ伝えることのできる客室乗務員たちが織り成す雲の上のドラマについてお話しいただきました。また、セミナーの途中ではスペシャルゲストとしてANAの現役客室乗務員を迎え、今年2月から着用を開始した新しい制服を披露したほか、秋本氏と現役客室乗務員の本音トークもお届けいただきました。

飛行機はこわくない

「今日はみなさんに航空に関して夢を持ってもらえる楽しい話をしたいと思います」

アメリカやヨーロッパ方面を中心に取材や私用で「年間70回は飛行機に乗っている」という秋本俊二氏。今回のセミナーは現役の客室乗務員とのトークや空港内の現場レポート、新鋭機の紹介など、盛りだくさんの内容でお届けすることとなった。

セミナー冒頭は、飛行機の安全性について。秋本氏が見せてくれたのは、先だって起きた台湾での航空事故の写真。墜落寸前の機体を写した映像は誰もが「ぞっとする」ものだ。ただし、これは滅多にないレアケースだ。

「飛行機に乗っていると、よく事故がこわくないですかと訊かれます」

秋本氏の答は「こわいと感じたことは一度もないし、事故に遭うと思ったこともない」。

「車も毎日たくさん事故があるけれど、人は車に乗るのに自分が事故に遭うとは思いませんよね。その点、飛行機っていうのは一回でも事故があると記憶に生々しく残るし、渋滞などを日々目にしている車とは違って、たくさんの飛行機が空を飛んでいるという実感がない。だから事故が起きると、自分にもそれが降りかかるのではないかという恐怖感にとらわれてしまうんですね」

けれど実際は、飛行機ほど安全な乗り物はない。もし一人の人が毎日飛行機に乗ったとして、死亡をともなうような事故に遭う確率は「438年間に一度」しかない。例えば東京とニューヨークを週に1回往復した場合、「2400年生きると一度くらいは事故に遭う可能性が出てきます」。次に秋本氏が見せてくれた画像は「ある瞬間に日本の本州やアメリカ上空を飛んでいる飛行機の数」。そこにあるのはまるで蜂の群れのような飛行機のマーク。これだけの数を目にすると、さすがに自分が事故に遭うとは思えなくなる。

「取材で会ったパイロットたちもいちばん安心していられるのは離陸して飛んでいるときだといいます。もちろん、事故はゼロではないけれど、それを心配するなら他のことを心配していた方がいい。ですからみなさんも楽な気持ちで飛行機に乗ってください」

機能的でエレガントなANAの新ユニフォーム

飛行機が安全に運航されている背景には、それに携わるスタッフの日頃の努力がある。このセミナーではその中でも「機内」という現場で乗客と直接接する客室乗務員(CA)をゲストに招いてみた。ご登場いただいたのは全日空(ANA)の現役客室乗務員であり、現在は広報部にも所属する山本直子氏。身につけているのは、今年2月から着用が開始になったばかりの新しい制服だ。ジャケットの色はそれまでの紺から明るいグレーへ。後ろを向くと、両袖の裏側とスカートのスリットに沿って全日空のコーポレートカラーであるブルーのラインが入っている。乗務中は腕を曲げたり伸ばしたり、客室内を行ったり来たり歩き回るのだが、山本氏いわく素材は「軽くて伸縮性に富んだ」もの。乗務員の動きといっしょに優雅に波打つブルーのラインが「とても美しい」と乗客からも好評のようだ。「これまでのデザインとはまったく違うこの制服は、常に新しいことにチャレンジしようというANAの社風から生まれました」と山本氏は言う。

「客室乗務員は、サービス要員である前に保安要員としての役割を担っています。制服リニューアルに際して実施したお客さまへのアンケート調査でも、制服に求められている一つは“安心感”や“信頼感”だという結果が出ました。今回の新しい制服は、女性らしいエレガントさに加えて機能性も向上し、私自身もとても気に入っています」(山本氏)

CAの仕事は華やかな部分だけがクローズアップされがちだが、新人トレーニングの大半は「保安訓練」だ。サービス面では「飛行距離と時間によって機内サービスや気配りするポイントが異なる」と山本氏。例えばソウルなどへの短距離便の場合は「時間との戦い。いかに丁寧さを欠くことなく予定しているサービスをお客さまにご提供できるか」。これが中距離の深夜便だと「お客さまの生活リズムを崩さないことを心がける」。そして長距離では「機内のエンターテイメントやお食事、そしてお客さまそれぞれの時間を楽しんでいただく」ことに重点を置いたサービスになる。楽しいのは「お客さまとお話をさせていただくこと」。秋本氏も「日本人はシャイだからなかなかCAに言葉をかけられないようですけど、遠慮なく話しかけて大丈夫です」と言って笑う。

「例えば彼女たちに現地のレストランなどの情報を聞くと本当にいいところをメモに書いて教えてくれたりします」

山本氏も「お客さまの視点で気づかれた点や、ここももっとこうしてほしいといったご要望なども、どんどん教えていただけると嬉しいです」と話していた。

日本の技術が生んだ革命的旅客機

セミナーの後半は秋本氏ならではの現場のリポート。ここではマレーシアのクアラルンプールに発着するJAL便のグランドハンドリング(空港地上支援業務)を追った。クアラルンプールの空港にJAL便が駐機するのは5時間ほど。その間に地上スタッフは機内を清掃。次のフライトのチェックインが始まり、預かった荷物はベルトコンベアを流れて所定のコンテナへ。そうした裏方作業は乗客の目には触れない。が、ここでも荷物に傷がつかぬように毛布をあてがうなどの配慮がある。感動的なのはスタッフが手を振って飛行機を送り出す場面。世界各地で取材を重ねてきた秋本氏だが、「これは日本人しかやらないこと」だという。

最後は「飛行機そのものの話」。効率重視の現在の飛行機は「カタチとしては面白味がなくなっている」。安全第一の乗り物である飛行機は既存の技術を少しずつ改良していく方法で造られるというのが基本。なかなか革新的なものが生まれない。そんな中で注目したいのがボーイングの新鋭機787だ。見かけはこれまでの旅客機と変わらないが中身はまったくの別物。機体は日本の東レが開発したカーボンファイバー製。それまでの金属に比べ炭素繊維からなるこの素材は軽くてより丈夫。燃費、乗り心地ともに向上という革命的な飛行機だ。日本人として嬉しいのは機体全体の35パーセントを三菱重工などの日本企業が生産している点。三菱重工はこうした航空産業で蓄積した技術を生かして、現在、純国産の小型旅客機(MRJ=三菱リージョナルジェット)を開発中だという。

セミナーではこの他にもボーイング社のライバルであるエアバス社での取材エピソード、世界の航空会社の制服を紹介。楽しい2時間は瞬く間に過ぎた。

「物書きは、モノを書くのではなくヒトを書くのが仕事」と秋本氏。そんな秋本氏にとって「人との出会い」はなによりも大切なものだ。

「私の『夢』は──そうですねえ、みなさんといつか再びお会いすることかな。またこうしてd-laboでお話する機会を設けていただければ嬉しいですね」

講師紹介

秋本 俊二(あきもと しゅんじ)
秋本 俊二(あきもと しゅんじ)
作家/航空ジャーナリスト
東京都出身。学生時代に航空工学を専攻後、数回の海外生活を経て取材・文筆活動をスタート。世界の空を旅しながら新聞・雑誌、Web媒体などにレポートやエッセイを発表するほか、テレビ・ラジオの解説者としても活動する。『航空大革命』(角川oneテーマ21新書)や『ボーイング787まるごと解説』、『みんなが知りたい旅客機の疑問50』(ソフトバンククリエイティブ/サイエンスアイ新書)など著書多数。