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イベントレポート

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2014年11月12日(水)19:00~21:00

池尻 良平(いけじり りょうへい) / 東京大学大学院情報学環特任助教

歴史って現代にどう役立つの?

「歴史は暗記ばかりでつまらない」、「歴史って何で学ばないといけないの?」こういう疑問を持たれたことはないだろうか。実は、古代ギリシャ時代と現代では歴史を学ぶ意味が変化している。その変化のなかで、現代における歴史を学ぶ大きな意味は影を潜めてきた。今回のd-laboセミナーでは、2000年に渡る歴史を紐解きながらその意味を掘り起こし、歴史を現代社会の問題解決に応用する教材の開発者である池尻氏をお招きした。開発の経緯をお話しいただくとともに、実際に教材を使いながらさまざまな地域や時代の歴史から現代の社会問題について考えていき、時空間を超えて歴史と現代が繋がる瞬間を体験する機会となった。

歴史を振り返り、現代の問題を考える

研究者として「歴史学習」に「教育工学」、「転移」、「ゲームデザイン」といった専門を持つ池尻良平氏。本セミナーでは「歴史学習」をテーマに、「経済の活性化や労働問題など現在の社会が抱える問題を過去の歴史を参考に考えてみよう」という取り組みについて、高校生向けに開発した教材を用いたワークショップなども交えてお話しいただいた。
冒頭は講師の自己紹介。家庭での池尻氏はひとりっ子。子どもの頃は「家の庭でアリを眺めて過ごすのが好き」だった。今思えば、「歴史」に興味を持つ素地はそこにあった。人間から見ればアリは小さい。その動きを観察することは、どこか「神の視点」から何百何千年とつづく人の社会を俯瞰するようなことと似ていた。中学のときには「歴史の先生になろう」と決意。進学した東京大学では文学部の歴史文化学科で西洋史を専攻した。そうしたなか、歴史を専門とする研究者は「特殊な思考」をしていることに気が付いた。中学や高校の授業で教わる「歴史」というものはほとんどが「暗記」。年号と人名と事件を覚えることが学習とされている。が、池尻氏が大学で学んだ西洋史の研究者たちは、たとえば「日本のグローバル化をシチリア半島のグローバル化の歴史と結びつけたり」、「今日の日本の外交関係を批判するのに過去の事例と比較をしたり」と、過去の歴史をたんなる「暗記」では終わらせていなかった。
「だけど、教育実習に行っても現場で重視されるのは、やはり暗記。このまま教師になっても自分のやりたい歴史教育はできないなと感じたんです」

「人は似たようなことをしながら変化していく」

「暗記」で終わらない教育を探ろうと、ひとまずは大学院に進学。大学院では本格的に歴史学習についての研究を始めた。まず取り組んだのは、一般の人と歴史家の違い。実は「歴史」は解釈によって変わってゆく。例えば鎌倉幕府の成立は「いいくにつくろう」の1192年ではなく、1185年だというのが現在では有力となっている。こうした解釈の変更を行なうのが歴史家だ。同じ資料を読むにしても一般の人が素直に頷いてしまうところで、歴史家はその情報ソースを確認し、極力史料が書かれた当時の人の視点で読もうとする。
「典型的な例が戦国時代。今の日本人から見ると戦国時代の武将はみんな天下統一を目指そうとしていたように見えますが、実はそれを考えていたのは織田信長だけなんですね」
現代人はどうしても「現代のフレーム」で物を見てしまうが、専門家は「バイアスを除いて理解していく」。「歴史教育」においてよく言われる課題は、そうやって解明されていく歴史を「子どもたちにどう教えるか」。しかし、歴史家並の知識や物の見方を体得するには最低でも「1,000時間が必要」。もちろん、中学や高校で「歴史」の授業だけに1,000時間も割くことはできない。池尻氏が目標とする「現代に役立つ歴史の学び方」を形にするには歴史家を養成するような勉強ではなく、それとは異なる代替案が求められているという。
そこでポイントとなるのが「歴史観」だ。現代に至るまで人類はいくつかの歴史観をもとに歴史を見てきた。古代ギリシャでは、自然災害や戦争などの社会的変化は「ぐるぐるまわっている」という「円環的歴史観」が歴史を見るうえでの観点だった。それが中世ヨーロッパになると、キリスト教の影響で「人はある未来を目指して一直線に進んでいる」という「終末論的世界観」に変わった。さらにそこから宗教色を薄めた「発展的歴史観」が発生し、一方で「円環的歴史観」を見直した「人はまったく同じではないが、似たようなことをしながらちょっとずつ変化していく」といった螺旋的な「循環的歴史観」が生まれたりもした。現代はというと、「客観的な科学性を持った歴史をつくっていこう」という「個性記述的な歴史観」が中心。ただし、この歴史観はその時代ごとに特化した研究が多くなるため「たこつぼ化」が進み、「現代との関係が弱くなる」という弱点がある。
「個性記述的歴史観は悪くはないのですが、これだけだと歴史と現代を結びつけることができない。歴史のパワーが出ないんですね」
そう語る池尻氏のなかで「有力」なのが「循環的歴史観」だ。「歴史」の特徴は「扱っている情報のスパンが長い」こと。人の一生は80年程度。何か物事を分析する際に自らの体験だけを参考にするのでは限界があるが、そこに「歴史」という情報が加われば、それを下敷きにさまざまなアイデアが浮かぶ。池尻氏が開発している教材は、まさにそれを具現化したものだ。

新しい歴史教育システムをつくる

このセミナーでは参加者全員が「historio」、「CHRONOFUL」という2つの教材を体験。「historio」では、「産業革命期の労働問題を現代の労働問題に言い換え」てみた。産業革命の始まりとなった要因は、「商業OKのピューリタニズムの発生」。これによって誕生した「合理的な精神」が「技術革命」につながり産業革命が起きた。それにともなって生まれたのが「自助の精神」や「都市への人口集中」。そこに識字による能力の格差や選挙権など法の未整備などが加わって「労働問題」が発生した。これを現代の日本の労働問題に置き換えてみると、たとえば「読み書き能力の格差はITの格差などと重なる」し、「『自助の精神』は今も残っている」などといった共通点が確認できる。「historio」はこうした作業を原則2人1組でチームを組み、2チーム間で行なう。もうひとつの「CHRONOFUL」も2チーム4人で行なう。歴史上、経済の活性化に功績のあった指導者たちの行なった事業をベースに、現代の日本の都道府県のいずれかを選んで、そのとるべき政策をひとつのチームが語り、もうひとつのチームが反論していくといったゲーム形式の教材だ。
池尻氏が今現在開発に取り組んでいるのは「ニュースと歴史が連動するようなシステム」。ある事柄がニュースで報道されると、すぐに過去の歴史のなかでそのヒントとなり得るものが提示される。そうしたシステムを「悪戦苦闘しながら作っている」ところだ。
「公教育が好き」だという池尻氏。研究者としての「夢」は歴史学習を媒介に「人類を進化させること」。問題は「学校という教育システム自体が社会の変化スピードに追いつけなくなっている」ことだ。
「新しい歴史教育システムを作って、公教育をもう一段上に上げたいですね。歴史を参考に、失敗のない安定した経済や政治状況が保たれるようになれば、人類のレベルも順調に上がっていけるんじゃないでしょうか」

講師紹介

池尻 良平(いけじり りょうへい)
池尻 良平(いけじり りょうへい)
東京大学大学院情報学環特任助教
1985年大阪生まれ。2008年東京大学文学部歴史文化学科を卒業。2014年東京大学大学院学際情報学府博士課程を修了(学際情報学博士)。専門は歴史学習、教育工学、転移、ゲームデザイン。社会の問題解決に応用できる歴史教材を開発し、効果検証を行っている。2009年度東京大学大学院学際情報学府優秀論文受賞。2013年日本教育メディア学会井内賞(優秀論文賞)受賞。