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2012年11月15日(木) 19:00~21:00

林 香里(はやし かおり) / 東京大学大学院 情報学環 教授

Japanese Media
- 日本のマスメディアを国際的視点から考える -

近年、日本の大手マスコミはさまざまな批判に晒されています。他方で、私たちは緊迫する内外の 政治情勢や、日常生活では聞こえてこない声や目には見えない現実を知るためには、マスメディア・ ジャーナリズムという制度が必要です。では、日本のジャーナリズムは他国と比べてどのような特徴 があるのでしょうか。また、私たち、日本の視聴者や読者にはどのような特徴があるのでしょうか。 現在、林氏が行っている国際メディア比較研究の結果の一部をご紹介いただきながら、日本のマス メディア・ジャーナリズムの未来を考えてみませんか。

視聴率に縛られた日本のテレビ業界

テレビや新聞など、日本人にとって重要な情報源であるマスメディア。昨今ではいろいろと批判もされてはいるが、テレビにしても新聞にしても、依然としてその影響力は大きい。人々はそこに登場するものには権威を感じるし、紹介された人気店には足を運ぶ。学生の目には憧れの就職先に映る。
悪口を言っている一方で、結局のところ日本人はマスメディアを信頼しているんです。」 そう語るのは今回の講師である東京大学大学院情報学環教授の林香里氏。マスメディア研究を専門とする林氏は、海外の大学との共同研究などによって、「身近なだけに難しい」日本のマスメディアについて客観的分析を重ねているこの分野のエキスパートだ。
講義は三部構成。「日本のマスメディアの特徴と基礎データ」「国際比較」「日本のマスメディアの未来を考える」といった内容で進んだ。
日本のマスメディアを語るとき、念頭に置かねばならないのが5大キー局と5大新聞の存在。また、この民放各局と新聞各社がそれぞれに結びついていることも周知の事実だろう。
まず放送。日本にはNHKの他に全国ネットを持つ5つの民放局がある。地方には系列のローカル局があり、その情報発信量や社会的影響力には絶大なものがある。この公共放送と民放の並列が日本のテレビ業界の特徴だが、裏には問題がないわけではない。林氏が一例にあげたのは「職場としてのテレビ局」だ。
「テレビ局というと華やかなイメージがありますが、仕事は本当に大変です。」
パネルに映し出されたのはテレビ業界で働く人々の平均年収。テレビ局の社員はさすがに1千数百万円と高収入だが、現場では8割を占める番組制作会社の社員は300万円台。日本人が信頼を寄せるテレビ番組は、職場としては実はかなり厳しい環境にあることがわかる。加えてテレビには視聴率というものがあり、これが番組の内容を大きく左右する。ことに民放の収入は大半がタイム広告とスポット広告による広告費。番組と番組の隙間を埋めるスポットのテレビCMは、視聴率によって流す本数が決まる。視聴率の良いテレビ局は効率良くスポット広告を流せ、売上も上がる。ゆえにテレビ局は視聴率を稼ぐために人気タレントを起用するといった安易な番組制作に走る。その結果生じているのが、「どのチャンネルも同じような番組ばかり」といった現象。これは日本のテレビの問題点だろう。

国際比較によって浮き彫りになった日本のマスメディアの姿

他方、新聞はというと、インターネットに押されて広告収入は落ちている。が、各社の屋台骨である定期購読収入は減っていない。この点は世界の新聞業界の「羨望の的」となっている。日本の新聞は5大紙のほかに、ブロック紙や各県に1紙の地方紙がある。最大の新聞社の発行部数は約1000万部。2位の新聞社が約800万部。これは同時に世界の1位、2位でもある。購読部数では日本は世界有数の新聞大国なのだ。
この新聞大国を支えているのが全国2万店の新聞専売店だ。やはり朝起きて新聞がポストに入っているというのは楽でいい。日本の新聞の購読部数はひとえに地域密着型のサービスを維持する専売店によって支えられているといっていいだろう。
「ただ、安定事業だけに今の状況から抜け出せないのが日本の新聞なんです。」
たとえば、電子化には及び腰。今はまだいいが、若い世代の新聞離れは確実に進んでいるし、少子高齢化も頭痛の種だ。ヨーロッパなどでは言語の違う隣国の新聞に資本進出して生き残りをかける新聞社もあるという。あるいは日本の新聞もそうした可能性を探る必要があるのかもしれない。
2010年の5月から6月にかけてアメリカ、韓国、ギリシャ、日本など11カ国が参加した共同の国際比較研究では、各国の人々のマスメディアの利用度や知識、情報量などが数値となって顕在化した。そこで見えてきたのは、報道される政治についての知識はあるが、それに対して感じる「有効性」「信頼度」「関心」が低いという日本人の特徴。また、国際ニュースの少なさや、情報源が明らかにされにくいという日本の報道の問題点だった。林氏率いる研究グループは、「メディアがしっかりしている国は、国民の政治への関心や知識のレベルも高く、健全な民主政治が営まれているのではないか」という仮説を立ててこの共同研究に臨んだという。さて日本の場合はどうか。マスメディアの巨大さに比べるとクエスチョンがつくような一面が浮き彫りになってしまったような印象だ。

極化せず「知識ある市民」へ

では、日本のマスメディアの未来、そしてそれに通じる社会はこの先どうなるのか。林氏が提示したシナリオはそれぞれAとBの2つ。

◎日本のマスメディアの未来
A 優良大手の寡占が進行し、一層の集中化が起こる。大手はオールラウンドな情報提供を一手に引き受ける可能性。
B 生き残りをかけたメディアが報道や意見にも特徴を出し、意見が極化する可能性。(例:最近の米国など)

◎日本の社会の未来
A マスメディアとインターネットを通して、ローカル、グローバル、両方の情報に接触する機会が増えて、知識ある市民たちが誕生する。
B 自分の好みの情報にアクセスしやすくなるために、グループ志向が強くなり、政治知識に大きな格差が現われるとともに、意見が極化する恐れがある。

いずれも、BよりはAの方が好ましいといった感じだ。
「これを乗りこえるのは私たちの課題です。」
日本人と日本のマスメディアは岐路に立たされている。林氏の話は、来場者に命題を投げかける形で終了した。その後、「視聴者がニュースを選んで見る自由」「マスメディアと市民メディア」「メディア研究の現状」「ハードの進歩が及ぼすジャーナリズムへの影響」などについての質疑応答が行なわれ、最後にマスメディア研究という「夢」を追いつづけてきた林氏に、「夢を見続けてよかったこと」について語っていただいた。
「私の研究室では常時5~6カ国からの留学生をお預かりしています。彼らとともに日本を相対化しつつ世界を知る。こうした研究ができて毎日が幸せです。」
今後取り組みたいのはテレビ番組のアーカイブ化。「世論喚起をしていきたいですね。」との言葉に、会場からは拍手が湧いた。

講師紹介

林 香里(はやし かおり)
東京大学大学院 情報学環 教授
1963年名古屋市生まれ。ロイター通信東京支局記者、東京大学社会情報研究所助手、ドイツの バンベルク大学客員研究員(フンボルト財団)を経て現職。主な著書に 『<オンナ・コドモ>のジャーナリズム ケアの倫理とともに』(岩波書店 )、『マスメディアの周縁 ジャーナリズムの核心』(新曜社)などがある。専門はジャーナリズム/マスメディア研究。